ピックアップ Pick Up
Special Interview
志村剛生(成生)×バーミキュラ ユキヒラ
食べ慣れた和食も革新的な調理法で新しく
おいしさが広がるバーミキュラの雪平鍋。
おいしさが広がるバーミキュラの雪平鍋。
独自の揚げ方で、食べ手を新境地へ連れて行く「成生」の店主であり天ぷら職人の志村剛生氏。その新食感の天ぷらは、素材と道具への並々ならぬこだわりと、卓越した技術によって支えられている。日ごろからバーミキュラ製品を愛用する志村氏に、バーミキュラの新製品「VERMICULAR YUKIHIRA」だからこそ調理したい料理をご紹介いただきながら、成生の天ぷらの極意と、自身の料理観を語っていただきました。
お客の顔が見える距離で、地元の朝採れ食材を調理する
そんな当たり前をやりたかったから、この場所を選んだ
「今朝まで海を泳いでいたレンコダイです」
そう言って、ふっくらと膨らんだ天ぷらをカウンター越しに差し出すのは「成生」の店主であり、天ぷら職人の志村剛生氏だ。
駿府城からほど近く、静岡駅から車で10分ほどに「成生」は店を構える。通り沿いに面しながらも、静かで整然とした佇まい。ひとたび中に足を踏み入れると、すうっと澄んだ空気が全身を包む。エントランスホールを抜けて席に着くころには、意識は日常から遠のき、成生の世界に没入している。
550坪もの敷地を有する中、席数はカウンター8席のみ。後ろの大きな一枚窓の先に広がるのは、室町時代から残る日本庭園。厨房には志村氏と鍋ひとつ、客の目の前で一品一品を仕上げていく。ここは、食べ手が料理に集中できる環境が整えられている。
成生では、ランチとディナー、毎日その日の朝に仕入れた地元の新鮮な魚、野菜を使ったコースを振る舞う。
このスタイルで18年間、天ぷら一筋でやってきた。当初は3,800円のコースをつくり、駅前わずか13坪の店舗でスタート。それでも3年間お客は来なかった。そのうち、地元の人が少しずつ、やがて、口コミで県外の人がここを目がけて訪れるようになり、次第に風向きが変わっていった。今では「成生の天ぷらを食べたい」と国内外から足を運ぶリピーターを多く抱え、予約は常に半年先まで埋まる日本屈指の名店だ。
バーミキュラの雪平鍋が持つ傑出した調理性能で
素材の旨みを全力で味わう天ぷらを家庭でも
「天ぷらは、素材に対して4つのアプローチが同時に叶う調理法です」と志村氏は言う。
「揚げながら、素材の中心から蒸らして、水分を抜く。最後に油の量を減らして温度を上げれば、焼くこともできる。揚げ、蒸らし、脱水、焼き、どの工程にも欠かせないのは、的確に火入れを行うことです」
だから、お店で使っているのはアルミ製の鍋。理由は、熱の反応を早く受けてほしいのと、火を止めればすぐに冷めてほしいから。温度変化が起こりやすいということは、料理人が意図した通りに火入れのコントロールが行えるということだ。
志村氏は、家庭で天ぷらを揚げるならバーミキュラの雪平鍋が最適、と太鼓判を押す。
「アルミの鍋とは反対に、温度が下がりにくいことがとても重要です」
バーミキュラの雪平鍋は、鋳物ホーロー製で高い蓄熱性があるのが大きな特徴だ。家庭で天ぷらを揚げるうえでは、この蓄熱性が大きな利点となる。
「なぜなら、家庭でうまく揚がらない一番の理由は、素材を入れたときに鍋中の温度が急激に落ちてしまうから。
バーミキュラの雪平鍋なら熱をため込めるので、素材を入れたときも温度の落ち方がゆるやかです。さらに、肉厚が薄いので、そこから温度を上げようと思えば、すぐに鍋全体に熱が伝わる。火加減の調節がしやすいつくりで、揚げものに強い鍋だと感じます」
高い蓄熱性に続くバーミキュラの雪平鍋の特徴として、その肉厚の薄さがあげられる。鋳物製でありながら、肉厚はわずか1.6mm。熱伝導率が高く、すぐに火加減に応じた温度に追従する。片手で取りまわせるほどの軽さも魅力だ。これらはすべて、バーミキュラ鍋の開発を開始してから今日まで、18年間にわたる職人たちのたゆまぬ努力によって磨いた技術を結集し、成しえたことだ。
天ぷらは、一見すると素材を高温の油に入れる単純な調理だが、実は、食べ手の目の前で、調理の始まりから終わりまでタイミングの見極めを繰り返し、揚げたてを振る舞う一本勝負の世界。
その勝負は、粉や生地の仕込み、素材の調達からはじまっている。お客の前では、油のたぎり方をみて温度を調節し、素材の持つ水分量から適切な火入れを見極め、アプローチ法を瞬時に判断。それが英断だったかどうかは、食べ手の表情をみてはじめてわかる。ただし、素材の状態は毎回違うから、やり直しも繰り返しもきかない。
そんな風にして培った経験則に基づく勘と、静岡の風土、滋味豊かな食材が “成生の天ぷら” を確立させた。
バーミキュラの雪平鍋でなら、多くの人を虜にしてきたその極上の食感に、限りなく近い状態を再現できる。
だから、調理時間のほとんどは火を止めた状態。余熱で火を入れ、温度が下がってきたら強火で加熱し、また余熱で火を入れていく。
「すると、衣のふちの部分がうっすらと色づいてくる。これは、焦げではなく内側から出てきた玉ねぎの糖分。これをキャラメリゼするように焼いていきます。」
オニオングラタンスープのように、長時間火を入れたような仕上がりにするために最後に行う工程が、揚げ焼きだ。油を少なくしてから急激に温度を上げ、衣を焼きつける。ここで活躍するのが、バーミキュラの雪平鍋専用に開発されたドロップリッド(落とし蓋)。
「揚げ焼きを行う際には、この落とし蓋がいい仕事をします。落とし蓋を入れて素材を鍋肌に密着させて、温度をぐっと上げると、内側から玉ねぎの糖分が染み出てくる。高い温度に急激にさらされることで衣がしっかり焼けて、香りも一気に変わります」
外側にも糖分を纏った、かりんとうのようなものが出来上がり、これも旨みになる。
いい仕事をするには、いい道具が必要
明確で、偏りがない味と香りが出せるバーミキュラ製品は欠かせない
続いて、志村氏が考案したのは、焼きキャベツと菜の花のみそ汁だ。
「はじめに、落とし蓋を使って春キャベツをしっかり蒸し焼きにすることで、旨みを引き出します。香ばしい焼き目が出汁の役目も担う。みずみずしく甘い春キャベツと菜の花の食感を残すため、素早く焼きつけて仕上げます」
バーミキュラの雪平鍋は、高い蓄熱性と熱伝導に加えて、抜群の焼きつけ性能も誇る。
独自開発の “瞬間蒸発ホーロー” を表面にコーティングすることで、食材の水分を素早く蒸発させて旨みを凝縮。そこに落とし蓋をあわせると、食材から出る水分が鍋と落とし蓋の中で対流を起こし、素材から出る旨みを含んだ水分だけで蒸し焼きを行える。同時に、鋳物製の落とし蓋の適度な重みがミートプレスのような役割も担い、食材を均等に香ばしく焼きつける。素材の力を引き出しつつ、香ばしい焼き目で深みを足すことで、しみじみ旨い焼き野菜のみそ汁が出来上がる。
「落とし蓋は、鍋中に入れる前にIHヒーターの上で加熱します。軽く押さえながら焼きつけて、上下から熱を加えることで、より効率的に火入れができます。」
成生流で調理器具の新たな可能性を見出していく。鍋と同じ、鋳物製の落とし蓋だからこそできる調理法だ。
みそ汁をすくうお玉がホーロー製だったり、天ぷらの調味料が入った豆皿が土ものだったり、成生では、直接食材に触れる調理器具はガラス質か、土ものと決まっている。店でバーミキュラ製品を取り揃えたのは2017年。鍋をはじめ、店のすべての調理器具を一新したタイミングだった。
「素材の味と香りをいかに損なわないかを突き詰めていくと、器や道具の質に対してもこだわりが生まれた。その中でたどり着いたのがバーミキュラの鍋でした」
以来、出汁を取るのにバーミキュラの鍋は欠かせない。
「出汁は、魚のあらから取ったものを使います。バーミキュラで取る出汁は、味わいと香りの明確さが際立っている。お店で出す天つゆ、丼たれのベースになる昆布出汁も含めて、出汁はすべてバーミキュラの鍋で取っています」
焼き野菜のみそ汁に必要不可欠な食材は、出汁と、もうひとつあるという。
「仕上げのトッピングには、天ぷら調理の際に出る揚げ玉を。素材の旨みを吸った揚げ玉を加えることで、魚のあら出汁の旨み、焼きつけた野菜の香ばしさに加えて、味わいにより深みが生まれます。焼き野菜のみそ汁は、まかないでも弟子がしょっちゅう作る品。そのときも、揚げ玉のトッピングは必須です。」
成生とバーミキュラ
両者が見据える未来の共通項
「静岡のおかげで、色んな方に天ぷらを食べてもらう機会に恵まれました。恩返ししたいと強く思います」
静岡に恩返ししたいーー志村氏が言う静岡という言葉には、日々をともにする生産者、切磋琢磨する同志たち、地元民、豊かな食材、土壌、歴史、すべてが内包されている。
成生の天ぷらで静岡を盛り上げる、という志村氏の想いと
バーミキュラで世界中の家庭に笑顔を増やす、というバーミキュラが掲げるスローガンはどこか似ている。
自分のためにより、誰かのためにと思えたときの力は強い。躍進の原動力となるはずだ。
志村氏に教わる
VERMICULAR YUKIHIRAレシピ
Recipe1
新玉ねぎの天ぷら
レシピを見る
Recipe2
焼きキャベツと菜の花のみそ汁
レシピを見る
「成生」店主
志村剛生
Takeo Shimura
Profile
「成生」を営む天ぷら職人。オーストラリアへ留学中に料理人を志し、調理師免許獲得のため一時帰国。静岡県焼津市の割烹料理店で修業する中で、天ぷらの面白さに開眼する。天ぷら職人として静岡に身を置くことを決意し、2007年、静岡市に「てんぷら 成生」を開店。2021年、同市内に移転。
撮影/工藤剛史(OVERA)
文/加藤久美子