Special Interview
平雅一(Don Bravo/CRAZY PIZZA オーナーシェフ)×オーブンセーフスキレット

オーブンさえ不要! 家庭で薪窯級のピザを焼く。

自身が生まれ育った町、東京・国領で、イタリア料理店『Don Bravo(ドンブラボー)』を営む平雅一シェフ。お任せコースの締めに鎮座するのは、薪窯で焼き上げられるピザ。コース料理の中の一皿として、ピザを考察し続け、ピザの新たな可能性を見出した平シェフの1枚を食したいと、全国から美食家が訪れる。そんな稀有なピザ職人の新発想で、オーブンセーフスキレットを使い、自宅で誰でも美味しいピザが焼けるように。その方法とともに、自身の料理観、ピザと歩んだ10年間を語っていただきました。

不自由なところにクリエーションができる。
新調理法は「自宅でピザ」という制約から生まれた。

 

「オーブンセーフスキレットの登場で、ピザはお店で食べるものではなくなりますね(笑)」

 

自ら調理した「クレイジーマルゲリータ」を食しながら、そう言って屈託のない笑顔を見せるのは、イタリア料理店『Don Bravo』と、ピザ専門店『CRAZY PIZZA(クレイジーピザ)』を営むイタリア料理人、平雅一シェフだ。

「これまでピザは、家庭で作るには敷居が高かった。ピザ屋を営む身としては、本格的なピザは店で食べるもの、というのがひとつの強みだと思っていました。なぜかというと、ピザ特有のバリッとした食感を出すためには、薪窯や専用オーブンを使用して、450℃以上の高温度で包み込むように焼き上げる必要があるから。ですが、オーブンセーフスキレットで調理すれば、家庭でもレストランクオリティのピザが作れる。ピザの敷居が一気に下がりました」

平シェフが考案した、オーブンセーフスキレットで本格的なピザを焼く画期的な方法。それは、オーブンで焼き上げるのではなく、家庭のガスコンロとバーナーを使うというもの。この調理法の発案により、家庭のオーブンのサイズが大きかろうが小さかろうが、ガスコンロとバーナーさえあれば、ピザを焼くのにちょうどいい28cmのサイズを使い、誰でも簡単に自宅で薪窯級のピザが焼けるようになったというわけだ。

「オーブンセーフスキレットを使って家庭でおいしいピザを焼く。より多くの人に作ってもらうために、まずは、ハードルを下げたいと考えました。ならば、オーブン調理という括りを外し、ガス火でもおいしく焼けたならどうだろう、と。身近な調理法としてさらに親しみやすくなり、たくさんの人に作ってもらえたら嬉しいですね」

焼き色がしっかりついても焦げにならない。
オーブンセーフスキレットで調理すると、香ばしさの質が上がる。

 

「もともと、オーブン調理ができるフライパンとして使用し始めたオーブンセーフスキレット。もちろん、オーブンで調理しても、美味しいピザが焼き上がります。ピザ生地のふちの部分まで、しっかり香ばしく仕上がる。考案した3品のレシピのうち、『カルツォーネ 大人のマヨコーン、自家製焼肉のソース』は、オーブンで調理するレシピです。カルツォーネは、たっぷりの具材を生地で包んで焼き上げますが、オーブンセーフスキレットなら、外側はバリッとした食感に、中にもしっかりと火が入り、最高の出来栄えに」

「一方、ガス火とバーナー調理で仕上げるのが『クレイジーマルゲリータ』と『マリナーラ』。はじめ、試作として、蓋をしてガス火で焼いたところ、底面はしっかり焼き上がり、上部のソースにもしっかり火が入っていたけれど、厚みのある生地のふちの部分までは十分な焼き色がつかなかった。それならば、バーナーで上から焼いてみようと調整して、今回のレシピができました」

「このクオリティが、ガス火で、フライパンひとつでできるんだ、ということが何より嬉しい。そもそもこれまで、フライパンでピザを焼くこと自体を試したことがなかったので、オーブンセーフスキレットで成功した後、別のフライパンでも焼いてみました。結果は、味に大きな違いを感じました。バーミキュラ フライパンと同じく、オーブンセーフスキレットの特徴でもある瞬間蒸発性能により、焼く際の水分が飛ぶ速度が違うため、生地の甘みの出かた、食感が大きく変わる。オーブンセーフスキレットで焼き上げると、底面が薪窯で焼いたような絶妙のカリッカリ具合に仕上がります。ハンドル部分も耐熱素材なので、バーナーで上から炙るときも安心です。耐久性の高さも素晴らしいですね」

「調理を行うなかで何よりも驚いたのが、色がしっかりついているのに焦げの嫌な苦味が一切出ず、香ばしい風味が生まれること。ギリギリまで焼き上げても、香ばしさが増して、より美味しくなる。本来は苦味が出てしまうはずが、旨みに変わります」

「焦げは香ばしさとして、旨みのひとつになる。オーブンセーフスキレットだと、焦げ色をつけすぎてしまったかもしれない、と思っても食べると平気。むしろ、旨みが上がっている。ほかのフライパンでもピザを焼くこと自体は可能でしたが、味のクオリティは、オーブンセーフスキレットが段違いという印象です」

ピザと向き合い続けた10年間。
コースの中のピザを追求し、店の代名詞になった。

 

『Don Bravo』は、今年で開店10周年を迎える。

 

鉄板料理屋を営んでいた父親の店の跡地を継ぎ、東京は国領に店を構えることを決めたのは、33歳の頃だった。当時、最もネックだったのは集客の難しさ。お客さんが入る保証もなければ、最初からコースをやる余裕もなかった。何か、フックが必要。そう考えた平シェフが照準を合わせたのがピザだった。

「薪窯を外から見えるところに置くだけで、お客さんに本格的なピザが食べられるお店だということを視覚で認識してもらえる。お客さんに来てもらうために、わかりやすくて、家ではできないピザというツールは魅力的でした。店を続けていくうちに、自分たちのやりたい料理が決まってきて、同時に、ここまでわざわざ足を運んでくれるお客さんも増えてきた。ならば、皆さんのことを一発目で確実に感動させたい。そういう想いのもと、だんだんとお任せコースにシフトしていきました」

 

「いよいよコース料理をスタートするときに考えなければならなかったのは、根強い人気があったピザの立ち位置。結局、コースの締めにピザを出すことに決めました。ピザを基調に、ほかの料理は少しボリュームを下げよう、や、ほかの料理を繊細に作るからピザも塩味をおさえていこう、など、ピザとコース料理、本来は相いれないもの同士、お互いに色々な兼ね合いをとりながら、今のかたちができあがった。当初とはスタイルは変わりましたが、ピザありきでやってきたことは確かです」

「コースは2ヶ月ごとに変わりますが、締めのピザは、マルゲリータかクワトロフロマッジオと決めています。 “ここに来たらこれが食べたい” という料理がコースの中にあるのは礼儀だと思う。店では、ピザをそのポジションに置いています」

「今は、できあがった自分のピザが愛おしい」――そう。平シェフのピザは、“コースの中のピザ” という特異な立ち位置のもと進化を遂げてきた。例えば、塩味が強く、主役級の存在感があるナポリピザのそれとはまったく違うアプローチ。塩味は抑えられ、上品で軽やか。「生地だけ食べてもちょうどいい塩梅、ソースだけ食べてもちょうどいい塩梅を目指しています」

 

ピザを作る、というよりも、ひとつの料理を作る考え方で再構築されている。

 

かけてきた年月は目に見えなくても重みになる。
長く愛せるメニューが増えてきた。

 

「4~5年前から、夜はコースのみの営業。内容は、年々アップデートされています。新しいコースを考える際に、毎回、昨年のメニューを試作するのですが、これまでは1年経ってメニューを試食するたびに、あれ? どうしてこんなものを出していたんだろう、と感じ、いちから考案し直していました。最近は、1年前に出していた内容を1年後に試食しても、あ、やっぱり美味しいね、と感じるように。時間がたっても、いいと思えるメニューがだんだん増えています」

10年かけて、やっとすこしずつ、自分たちの料理ができあがってきました。試行錯誤を繰り返し、1年後に作っても、これ以上ない、と思えるメニューのレパートリーが増えていくレストランを目指したい。その方が骨太で、自分たちの世界観、良さを伝えられると思います。今年思いついた料理と、4~5年作ってきた料理、お客さんの前に出せば、どちらも同じ一皿ですが、やはり違う。長く作り続けてきた料理は思い入れもあるし、説明にも力が入る。確実に、味に安定感が生まれます」

 

いいところは残しながら、ネガティブなところは取り除く。
バーミキュラの鍋は、食材のポテンシャルを最大限に引き出す。

 

「バーミキュラの製品は、4年以上ずっと愛用しています。バーミキュラ鍋で無水調理したホワイトアスパラは、素材本来の味が引き出され、それだけで美味しい。あとは、からすみと羊のチーズをかけて完成です。繊維が残りならもほどけるような舌触りで、かつ、食感もきちんとある。バーミキュラで調理を行うと、食材の良さを引き立たせつつ、ネガティブなところは取り除いてくれる。シンプルな料理を作りたいときに、使いたい調理器具ですね。お客さんにも、炭で火入れした料理、薪で火入れした料理、と同じように、バーミキュラで火入れした料理、と説明する。そのくらい、特徴的な味わいを感じています」

 

「ライスポットでは、鴨の胸肉、鶏の胸肉の火入れを行っています。ライスポットに米油を入れて、保温モードで30分火入れを行うと、驚くほど美味しく仕上がっている。オペレーションも大変よく、定番です」

 

以前は、90点を狙うクリエイティブに賭けていた。
今は、ひとひねりで70点を向上させることを目指したい。

 

「オーブンセーフスキレットでなら、フリッタータなんかを作ってみたいですね。イタリア料理には、フライパンで作る郷土料理がたくさんあるので、オーブンセーフスキレットで作るとどう変わるのか試したいです。まったく同じレシピでも、使うフライパンをオーブンセーフスキレットにするだけで、料理が変わる可能性は大いにある。こういうクリエーションが、料理の新しい可能性を引き出すのだと思います。クラシックな料理にひと手間加え、すこし向上させる。調理の段階で、何かひとつの工程を足すことでも、今まで使っていたフライパンを変える、包丁を変える、といった調理器具を変えることもそう。軟水を硬水にしてもいい。それで変化を生むことがかっこいい」

一か八か90点を目指すクリエイティブな料理よりも、クラシックな70点にひとつ新しい何かをプラスして、既存の一皿に可能性を見出したい。感覚的な新しさよりも、根拠のある進歩を。より難しい方へ、新しく学び続ける姿勢は、平シェフを平シェフたらしめる。成長欲、知識欲は、経験を積み地位を確立してもなお、年々あふれ出る。自らにノルマを課し、昨年からは、 “毎朝歯を磨く時間は料理のYouTube動画を見る” ことを続けている。

 

「新しい発見はめちゃめちゃあります」その目は常に先を見据えている。

 

たしかに、オーブンセーフスキレットの誕生により、自宅で薪窯級のピザを楽しめる新たな時代が幕を開ける。だが、変わることを恐れず、変わることを求め続ける職人が作るピザもまた唯一無二。その1枚には、ひとりのピザ職人の想いや試行錯誤が詰まっている。これから、おいしいピザは誰でも焼けるようになる。だが、平雅一シェフのピザは、『Don Bravo』まで足を延ばさなければ食せない。

平雅一シェフに教わる
オーブンセーフスキレットレシピ

オーブンセーフスキレットの良さを生かし、自宅で作る絶品ピザのレシピ3品を平シェフにご考案いただきました。

Recipe1
クレイジーマルゲリータ

Recipe2
マリナーラ

Recipe2
カルツォーネ 大人のマヨコーン、自家製焼肉ソース

Don Bravo/CRAZY PIZZA

オーナーシェフ

平雅一

Masakazu Taira

 

Profile

イタリア料理店『Don Bravo』とピザ専門店『CRAZY PIZZA』のオーナーシェフ。広尾『アッカ』で修業し、イタリアへ渡る。『テンダロッサ』、『サドレル』、『ドゥオーモ』などで修業を積み、帰国。『リストランティーノ バルカ』(現・『タクボ』)、『ボッコンディビーノ』にて勤務後、2012年、東京・国領に『Don Bravo』をオープン。2020年には同じく国領に『CRAZY PIZZA』、2022年2月、神楽坂に『CRAZY PIZZA at SQUARE』を構える。

 

https://www.donbravo.net/

https://crazypizza.donbravo.net/

撮影/有高唯之

文/加藤久美子

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